生ハムメロン、それはヨーロッパの人々にとっては夏の味覚ですが、日本人にとって好き嫌いの分かれる料理。
「一緒に食べると美味しいよね!」と言う人もいれば「別々に食べたほうが美味しいじゃん!」と言う方もいると思います。
今回はそんな生ハムメロンについて、どうして誕生したのか、好き嫌いが分かれるのか詳しくご説明いたします。
・生ハムメロンの歴史
2世紀のローマ帝国。日本だとまだ卑弥呼が登場する前の弥生時代。中国では黄巾の乱が起こって三国時代に突入する直前。
生ハムメロンは実は健康食として生まれたと言われています。
のちのヨーロッパやイスラムの医療体系の基礎を築いた「ガレノス」と呼ばれるギリシャ人医師はそれまでの医療知識をまとめ上げ四体液説と言う説を唱えました。
人体には4種の体液(血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁)が流れていると言う学説です。
それぞれの体液は「風、火、水、土」の4大属性と結びつき、体の持つ状態「熱・冷・湿・乾」と深く関連しているとされました。
「風(熱・湿)、火(熱・乾)、水(冷・湿)、地(冷・乾)」と言った風に。
ファンタジー小説やゲームでよく見かける「属性バランスがこの世全ての均衡を保っており、それが乱れると大変なことになる」と言う理論ですね。
例えば当時、熱が出て発汗しているとするならば「体内のバランスが風属性に偏った」と診断されたことでしょう。
そんな医学を前提とした食事として誕生しました。
「冷たくて湿っているメロン」だけだと属性が偏ってしまう為、「乾いていて熱い(常温?)」生ハムを加えることでバランスの取れた健康的な食事になる、と信じられていたのです。
生ハムとメロンはこの健康学に基づき組み合わされ、さらに味の相性が良かった為、長い間食べられることとなりました。
ちなみに、現代医学において健康的な組み合わせかと言うと「メロンのカリウムは確かに生ハムに含まれる塩分の排出を助けるが、生ハムとメロンの相性が良すぎるのでついつい食べすぎてしまい、メロンのカリウムではカバーできないくらい塩分を摂取してしまうので注意せよ」と言う感じだそうです。
しかし、われわれ日本人が「ごはんと漬物」の組み合わせをわざわざレシピとして記載しないように、メロンと生ハムの組み合わせについては家庭料理として受け継がれ、具体的な文字としては残されませんでした。(現代まで残されたあらゆる王侯貴族の晩餐の記録やレシピについて調べれば見つかるかもしれませんが…)。
近代に入って地方料理などのレシピが纏められたことにより、生ハムメロンはヨーロッパの定番の夏の味覚となったのです。
・美味しい生ハムメロンとは
さて、生ハムメロンはなぜ好き嫌いが分かれるのか。
それは味の好き嫌いはもちろんとして、生ハムとメロンの味のバランスが重要なポイントとなります。
ポイントは「しっかり熟成させた生ハム」と「さっぱりとした甘みのメロン」。
この点に注意しないとメロンの甘さに生ハムが負け、味のバランスが悪くなってしまうのです。
先程も告げたように、生ハムとメロンの組み合わせは古代から存在するもの。
当時のメロンは現在のように甘くなく、野菜に近いものであったと考えられます。
なので、品種改良技術の発達により糖度を増した、甘くてとろけるメロン品種だとどうしても生ハムメロンとの相性が悪くなってしまうのです。
【しっかり熟成させた生ハム】
しっかり長期熟成させた生ハム。
生ハムを選ぶ際には塩気がしっかりとしたものを選びましょう。スーパーなどで売っている日本メーカーの生ハムは製法から違い、ソミュール液と呼ばれる調味液に漬け込み、一週間程で作り上げます。すると美味しいのですが生ハムメロンにするには塩気が足りない味わいになってしまいます。
なので、生ハムメロンを作る際はきちんと塩漬けされ「Xか月熟成」と記載されたハモンセラーノやジャンボンセック、まだ売っているのを見かければプロシュートなど海外産の生ハムを選ぶことをおすすめします。
もちろん、国産でも海外同様に塩漬け&熟成させたものであれば美味しく作れます。
【さっぱりとした甘みのメロン】
日本で美味しいメロンと言えば、とろけるように甘くジューシーな食感でしょう。農家さんや研究者の方々の努力により、美味しいメロンがたくさん出回っています。
が、生ハムメロンと相性のいいメロンとなるとまた別です。
イタリアなどでは主に材料として、黄色い果肉のカンタロープメロンが使われます。
それも熟したものでなく、まだ固めの状態のもの。
あえて若いメロンを使うことで、ねっとりとした生ハムとさくさくとしたメロンの食感のコントラストを作り、生ハムの旨味を引き立て塩分を和らげるさっぱりとした甘さを活かせるのです。
カンタロープはもちろん、日本のマクワウリのような甘さ控えめのメロンがおすすめです。海外だとまだ追熟しきってないハネデューメロンも使われるようです。
生ハムメロンとして食べる際はまだ硬さが残ったものを選びましょう。
カンタロープとハネデューを使った生ハムメロン盛り合わせ
本場だと、生ハムメロンにモッツァレラを足したり、バルサミコソースをかけたり、スライスしたパルミジャーノ・レッジャーノをかけたり、メロンを薄切りにしてサラダに添えたりと様々なアレンジで食べられています。
是非、この機会に当店の生ハムで「美味しい生ハムメロン」をお試しください。
参考サイト
「Eataly」
https://www.eataly.com/us_en/magazine/eataly-stories/history-of-prosciutto-melone/
「Italian Notes」
https://italiannotes.com/cured-ham-melon/
四体液説(wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E4%BD%93%E6%B6%B2%E8%AA%AC